凍夜
第7章 海溝
「リナ?やっぱり俺のコト……。」
マサシはいつのまにか、化粧を落としたらしくいつもの顔をして少年らしい姿に戻り不安げに表情を曇らせた。
鏡越しに私たちは暫くみつめあったままだった。
私の心の底で、チリチリと赤い炎が燃えているかのように、胸を焦がしていた。
私は口の中で奥歯を噛み締めて首を振った。
奥歯に欠けるような痛みが走るほど、私は何度も首を振り唇をひきむすんだまま小さく笑みを浮かべるのが精一杯だった。
胸の中の小さな炎が、痛いほどに燃え上がり、私はこの思いが、いったいなんなのか?初めての事で、知らなかったのかもしれない。
私は、鏡越しの、マサシの視線を横目に、何気なく片手を上着のポケットに突っ込んだまま、唇の端だけで微笑んでいた。