
普通の幸せ
第1章 日常
「センパイも遂にエリート彼氏に捨てられ秒読み寸前かー」
しみじみと大声で言う城咲に殺意がわく。
数か月前、城咲に飲みに付き合わされて酔った俺はよりにもよってな相手に自分の事や博紀の事を全て話してしまった。
それが決定的な俺の弱味になっていて、俺は城咲を強くあしらえずにいる。
「オレもカノジョにフラれそーな予感してるんで、その時は一緒に慰めあおーぜ、センパイ」
「お前はフラれても傷つかないだろ……」
「あれっ、どーして分かったんです?確かにお互い暇つぶしで付き合ってるだけだからなーどうでもいいな」
若いっていいな……素で思ってしまう瞬間だ。
いや、俺は若い頃から好きな相手には一途だったから城咲とは違う。それに俺はまだ27……まだ。
「最近、センパイの事が気になるんですよねー」
「……は?」
ぞわっと肌が粟立って城咲を見る。
「オレの周りにホ…、ゲイなんか居なかったしさ~だからなんかセンパイに興味津々っていうか」
いつの間にか舐めるように俺を見ている城咲に気が付くと同時に椅子から立ち上がっていた。
城咲はノンケの筈だし俺も自意識過剰だとは思うけど、とりあえず今のヤツが気持ち悪いのは事実だ。
「……いくら客がいないからってサボってるわけにはいかないよな」
今更そんな事を白々しく言いながら店内に戻ろうと扉へ向かう。
そんな俺の身体を城咲は背後から抱き締めてきた。
「……っ!?」
「そーいえば、センパイは“どっち”なんですか?」
「どっち??」
「上か、下かっていうの?男か女か?ん~なんて言えばいいかな~?」
ざっくりとした表現でも十分に伝わった。ようするに俺に対してタチかネコかどっちなのかって聞きたいらしい。
分かった上で、答える気はない。
「意味わかんねーよっ、離せっ!!」
そのまま思い切り肘鉄を食らわせて、ヤツの俺を抱き締めている腕の力が緩んだ隙に抜け出して部屋を出た。
