ネムリヒメ.
第10章 眠らない夜.
彼女を見つめるふたりの瞳はどこまでも優しかった
「ちーちゃん…夜、ちゃんと眠れてないんだね…だもん熱だって出るよ」
「ん…」
「楓くん、いつ戻るの!?」
「さぁ…な、アイツから連絡ないからどうだろうな」
「そう…」
聖は彼女の髪をそっと撫でた
「聖、オレも休むから戻ってもいいよ」
「そ!? じゃあそうしようかな、ちーちゃんのタオルだけ替えてあげてね」
「…ん」
「あと渚くん…」
「なに!?」
パソコンを閉じる手を止めて聖が真っ直ぐに渚を見た
「あの日の渚くんのセレモニー……招待されたゲストのリスト、欲しいんだけど…」
「………」
「外部からアクセスして入手してもいいんだけど…渚くんのトコ、セキュリティ固そうだし♪」
「は…当たり前だ」
涼しい顔をして、あははと笑う聖に渚がため息を返した
「オレ、無駄な労力は使いたくないんだよね」
「こっちだってお前のハッキングなんてゴメンだっての…潰されるわ」
「…ちーちゃんためだから、オレに流して」
そう言った聖の顔にはいつものヘラヘラした笑顔はない
「…渚くんだって、彼女のコトなんとかしてあげたいでしょ」
それに加えて、渚を見据える聖の眼差しは、普段の見透かしたようなものではなく、珍しく真剣に訴えかけるような眼差しだった
「っ…」
そんな聖の様子に渚がハッとする
しばらくふたりの間に、視線だけが絡んだ沈黙が流れた
そして…
「……わかった…用意する…」
渚の返事に聖は口元を静かに緩めた