ネムリヒメ.
第3章 無くしたモノ.
「………覚えてないって…言ってた…」
ポツリと呟いた渚の声が香り立つ珈琲から登る湯気と共に、ダイニングの空気に溶けていった
「え…なにが?」
「寝ぼけてるとかじゃないの?」
驚くふたりに渚は静かに顔をあげる
「………自分がどうしてここにいるのかわかないって…
きのう…何があったか覚えてないって、言ってる…」
「「…っ……!!」」
渚の突然の予想だにしない告白に言葉を失うふたり
「ただ……」
渚は重いため息を吐き、テーブルの一点を見つめたまま続けた
「ただ!?」
「…オレのコトは覚えてる…っていうか…オレの名前は知ってた…」
「「……………」」
ダイニングに重たい沈黙が流れる
時計の針の音がやけに大きく聞こえた