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「一番最初のレッスンの時、私が貴方を選んだのは、多分、運命だったんじゃないかなって思うの。両親が亡くなって…貴方が迎えに来てくれて…。貴方が手を取ってくれたあの瞬間から、私が貴方に恋をする事は決まっていたんだなって」

綾芽はそこで言葉を切ると、グラスに注いである水を一口飲んだ。

「色々と気持ちが揺れた事はあったけれど…。もう絶対に揺れません。私は…慎吾さんだけをずっと愛し続けます。だから…もう、不安そうな顔をしないで？」

そう言うと綾芽は葛城に両手を伸ばし彼の両頬を包んで真っ直ぐに見つめた。

何て事だろうか。

彼女には自分の不安や焦りが分かっていたのだ。

だから敢えて、注意される事を分かっていながら、自分を求めたのだ。

自分の不安と取り除く為に。

そして今もこうして言葉にしてくれている。

葛城は彼女の気持ちに触れ、自分の心がまだまだ未熟であった事に気付いた。

葛城は自分の頬を包む綾芽の両手に自分の手を重ねる。

真っ直ぐに自分を見つめる、黒い黒曜石の煌めき。

その瞳には自分が映り込んでいる。

周囲には完璧だと思われてはいるが、それはあくまでも表の顔だ。

本当の自分は、嫉妬に悩まされ不安に駆られるまま、彼女を求め彼女を困らせる、情けない男なのだ。

そんな自分を彼女はどんな風に見ているのだろうか。

「綾芽…。私は………」