お嬢様♡レッスン
第124章 【番外編】男達のバレンタイン事情
あっという間に立ち去った綾芽に、一体何だったのだろうかと、柳瀬はポケットに手を入れると、綾芽が押し込んだ包みを取り出した。
綺麗にラッピングされた小さな包みは、甘い香りを漂わせている。
「これって……、バレンタインのチョコレート?」
それに気付いた柳瀬の顔が綻ぶ。自分の事を気に掛けてくれた綾芽の優しさに。これからも傍に居ていいのだと許してくれる言葉に。
愛の告白の為のチョコレートではないけれど、今まで貰ったバレンタインのチョコレートの中で、一番嬉しい。
"幾つ貰えるか"ではなく、"誰に貰えるか"。
例えそこに恋愛感情はなくても、自分を想ってくれた事。その気持ちが何よりも嬉しかった。
「これは大事に食べないと……ですね」
綾芽の去った方を見ると、玄関の扉の中に消えて行く所だった。柳瀬は大事そうに包みを胸に抱えると、その背中に向かって深く頭を下げたのだった。