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お嬢様♡レッスン

第21章 Lesson 9♥ご奉仕しましょう

「そうですか。あの後、随分仲良くされた様ですしね?」

(少し嫌味っぽかっただろうか?)

柳瀬はそう思ったが、綾芽は特に気にしている様子はない。

「そっ、それは…」

「今日は私と明日の朝までとことん仲良くして頂きますよ?」

柳瀬はそう言って綾芽に向かって笑顔を見せた。

その笑顔に綾芽はたじろぐ。

「うっ…!(時々、柳瀬さんの笑顔が悪魔に見えるのは私だけ?)」

物腰の柔らかい紳士の柳瀬だが、綾芽は彼が何かを心に抱えている様な気がしていた。

それは綾芽の勝手な憶測に過ぎないと思ってはいるのだが、何か違和感を感じるのだ。

少しづつ彼を知る事で、その違和感が拭えるといいなと綾芽は思った。

花を選び終えると、二人は花器を前に花を生けていく。

綾芽は真剣に花と向き合いそれを生けた。

何処に飾るのか明確なイメージを持って。

その場と調和する様に。

綾芽は初めての作品を執事室に飾って貰いたいなと思った。

綾芽の部屋は可愛らしい装飾や家具で彩られらているが、その隣の執事室は殺風景だった。

複数の執事達がそこを利用する為にそうされて居るのだとは思うが、24時間自分に付きっきりの執事達が、一人で部屋で待機している間に少しでも和んで貰えたら。

綾芽はその想いを込めて、一輪一輪、剣山に花を挿していく。

静かだった。

時折、長さを調整する為に入れる花鋏の音以外は何も聞こえなかった。

選んだ花を全て挿し終えると、綾芽は花に向かって礼をした。

花に対し真摯な気持ちで向かい会えた事に対する感謝の気持ちだったのかも知れない。

何だかそんな気分だった。

柳瀬はそんな綾芽を見て、彼女は華道の根底にある物を形式的な物ではなく、心で理解しているのだなと思った。

「お嬢様のこの作品は何処に飾る事をイメージして生けられたのですか?」

作品を鑑賞しながら、柳瀬が質問する。

芸術には主題があるものだ。

「これは執事室に飾って頂こうと思って生けました。皆さんの顔を思い浮かべながら、私が生けたこのお花達が皆さんの心を和ませられたらっ…て」

(優しいお方だ。でも何故?)

「私共の事を考えて生けて下さるとはお気持ち痛み入ります」

「いえ、あの…飾って頂けますか?」

「勿論で御座います」

「良かった!」

綾芽はそう言うと“ふふっ”と嬉しそうに笑った。

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