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お嬢様♡レッスン

第31章 来訪者の執事

「もう!幾ら何でもやり過ぎでしょ!」

綾芽は一人、ブツクサと文句を言いながら庭を歩いていた。

朝っぱらから淫らなやり方で起こされた綾芽は、現在朝食前の散歩中である。

愛されているのだろうけれど、高月のそれは度を越している。

昨夜は、あれだけ身体を繋げたと言うのに。

“昨夜”

そのキーワードは、綾芽の心に痛みを齎した。

綾芽の初めての恋心を葬った夜だった。

相手に想いを伝える事も出来なかった恋。

(早く忘れなきゃ…)

綾芽はぼんやりとそんな事を思いながら歩く。

気が付くと、邸から大分離れた所迄来てしまっていた。

引き返そうと踵を返すと、『すみません』と聞き覚えのない声に呼び止められた。

辺りをキョロキョロと見回すと、正門の方から此方に向かって歩いて来る人影があった。

あの人物が、呼び止めた本人なのだろうか。

その人物は執事服に身を包んでいたが、やはり見覚えはない。

新しい執事なのだろうか。

そんな事を思いながら、彼が追い付くのを足を止めて待つ。

彼は両手に大きな荷物を携えていた。

「すみません。お待ち頂き有難う御座います」

男は綾芽に追い付くと、開口一番、そう言って甘い笑顔を見せた。

「いえ。あの、どちら様ですか?」

「ああ、すみません。申し遅れました。恵莉奈様の執事の“姫川”と申します」

「恵莉奈さんの?」

「ええ。昨夜、葛城さんにお嬢様が此方に伺っているから迎えに来る様にと連絡を頂きまして…」

“葛城”

それは、今の綾芽に胸に痛みを伴うキーワードだ。

「どうかされましたか?」

長身の姫川と名乗る男が、屈んで綾芽の顔を覗き込んだ。

「何でもありません…。と言うか近いんですけどっ!?」

「すみません。目が悪いものですから…」

「目がお悪いのは分かりましたから、離れて下さい」

そう言って綾芽が顔を背けようとした瞬間、唇に柔らかい物が触れた。

(えっ!?)

それは一瞬の事で、綾芽が呆気にとられていると、姫川は綾芽を素早く肩に担ぎ荷物をその場に残してスタスタと歩き始めた。

「えっ!?何?何なの?下ろしてっ!」

「貴女、綾芽お嬢様でしょう?隙だらけですねぇ…?」

「いやっ!下ろして!誰かぁ!!」

綾芽は姫川の肩の上で手足をバタバタさせ暴れてみるものの、姫川にガッチリ抑えられ効果はなかった。

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