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夜になり、ヘンリーは綾芽の部屋へと出向く。

控え目にノックし、自分の訪問を伝えると綾芽は驚いた様だった。

「ヘンリーさん、ごめんなさい。ウィルの弟さんがいらっしゃる間は…」

綾芽は言葉を濁しながらも、拒絶の態度を見せる。

「貴女は、私に報酬を支払わないと仰るのですか？」

「ヘンリーさん。私は貴方の働きに対して見合った以上の物をお支払いしたと思います」

「どういう意味です？」

「ウィルは私に500万ドル（約６億円）の価値を付けたわ。それって貴方の年収の何倍だと思って？」

「………」

綾芽にそう言われてヘンリーは絶句した。

記憶を失くしているからと侮っていたが、彼女は馬鹿ではないらしい。

唯、住み込みの執事の報酬は、同じ年代のサラリーマンと比べると比較的高い。

何故なら、執事とは管理職であるからだ。

彼は執事となって、未だ３年程であるが、その年収は８万ドル（約1000万円）近くはある。

綾芽が後60年生きるとして、その一生分の金額とするならば、彼とはほぼ同等になる筈だ。

ヘンリーはそこに言及し、食い下がる。