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お嬢様♡レッスン

第2章 御覚悟下さい、お嬢様

「眠ってしまわれたか…」

寝息を立てる綾芽の姿を見て、葛城はホッと息を吐いた。

そして綾芽の顔をじっくりと観察する。

(目元は旦那様によく似ておられる。ぷっくりした口元はお亡くなりになった奥様譲りか?)

葛城は綾芽の両親が出て行った後に入った使用人である為、二人の顔は知らない。

しかし、邸には二人を知る者も多い。

今、車を運転している黒崎と言う男もその1人である。

葛城は運転席と後部座席を隔てるスクリーンを下ろし、黒崎に尋ねた。

「黒崎さんは綾芽様の御両親をご存知でしたね。綾芽様はお二人に似ておられますか?」

「そうですね…鼻筋のスッとしたところは泰芽に似ていますね。目元や口元や輪郭、佇まいは綾音様にそっくりです」

「そうですか…お二人ともさぞや美形だったのでしょうね?」

「そりゃあもう!泰芽なんて殆どの若いメイド連中が熱を上げてた程でして…。綾音様も天使の様に愛らしくて、屋敷の皆が綾音様の虜でした。二人が主従関係でなかったら、皆が羨むようなカップルでしたよ!」

「成程。有難う」

「いえ…。葛城さん?」

「何でしょう?」

「私は綾音様の分迄、綾芽様には幸せになって頂きたいと願っております」

「そうですね…その気持ちが、綾芽様を支えてくれる事でしょう。宜しく頼みましたよ?」

「はい」

黒崎がバックミラー越しに頷くと葛城も頷き返しスクリーンを上げた。

更に彼は携帯電話を取り出すと電話を一本入れる。

「葛城です。はい、綾芽様には簡単に事情を御説明致しました。もう間もなく到着致します。はい。大分御窶れのようです」

『…………』

「はい。畏まりました。それでは」

相手が電話を切る迄待つと、葛城は通話終了のボタンを押し、携帯電話を懐のポケットに仕舞う。

(さて、そろそろ到着するな。そろそろ起きて頂かねば…。おや?)

綾芽の顔に視線を戻した葛城は、彼女の頬に一筋の跡に気付く。

涙の跡だ。

両親を亡くしてから今日まで、一体どのくらいの涙を流したのであろうか。

愛する者を持った事のない葛城には綾芽の哀しみを理解する事は出来なかった。

「綾芽お嬢様、起きて下さい。間もなく到着致します」

広大な邸の門に差し掛かった所で、葛城は綾芽に声を掛ける。

二、三度声を掛けた所で綾芽は身じろぎし、重い瞼を開く。

「ここ…は?」

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