テキストサイズ

お嬢様♡レッスン

第2章 御覚悟下さい、お嬢様

綾芽が辺りを車窓から外を見廻すと、辺りは木々に囲まれた道を走っているようだった。

「お屋敷の門を潜りました。間もなく到着致します」

静かに葛城がそう告げると、綾芽はハッとした様に身を起こし、髪を手櫛で整えた。

「さあ、着きましたよ」

葛城が微笑んでそう言った矢先に、車の扉が開かれた。

まだあどけなさを残す少年が、ピョコンと車の中を覗き込み、満面の笑みを浮かべて綾芽に手を差し伸べる。

「お帰りなさいませ。お嬢様!」

綾芽は戸惑いながら葛城の方を見ると、彼は頷いた。

おずおずと差し伸べられた手に自分の手を重ねると、軽く手を引かれ車外へと導かれる。

「お疲れ様でした!あ!足元にお気を付け下さい」

栗色の髪をふわふわと踊らせながら、少年が再び頭をピョコンと下げる。

綾芽は一言『有難う』と告げると、目の前に聳える建物に目を向け、その大きさにあんぐりと口を開いた。

(お屋敷!?って言うか此処に住むの?)

「こちらが綾芽様がこれからお住まいになる別館になります」

後から降りてきた葛城がそう告げると、綾芽は更に驚いた。

(別館!?って事は本館もあるの?)

その驚きに綾芽は暫し父母を亡くした心の痛みを忘れていた。

そのくらい動揺していた。

初めて葛城に声を掛けられた時の様に。

何もかもが驚きの連続だった。

「本館には綾芽様のお爺様、東乃宮宗佑様がお住まいです。本館を挟んで左右に別館が一棟ずつ。その内の右側の棟が、綾芽様の『白鳥(しらとり)館』になります」

(ええっ!?別館ってまだあるの?ってかそんなに誰が住んでるの?)

「本日はお疲れでしょうから、後日ご案内致します」

流れる様な仕草で、綾芽の手を取り先へと促す葛城に導かれ階段を上がると、白鳥をモチーフにした彫刻が施された大きな扉が開かれる。

「お帰りなさいませ!お嬢様!!」

そこにはズラリと二列に並んで頭を下げている人々の姿があった。

(なっ!?何事ーーーー!?)

綾芽は更に動揺して一歩身を引く。

その狼狽える姿に葛城は思わずクスッと笑ってしまった。

先程まで憔悴し泣きながら涙を流していたとは思えない程の見事な狼狽っぷりだ。

「お嬢様?」

「わっ…私っ…帰りますっ!!」

身を翻して玄関の扉に向かおうとする綾芽を後から続いて来ていた高月が制する。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ