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お嬢様♡レッスン

第2章 御覚悟下さい、お嬢様

「何処にお帰りになると言うのです?」

「わっ、私の住んでるアパートに…」

「ああ、それなら先程引き取らせて頂きました。後程、荷物はこちらに届く手筈になっております」

「なっ!?」

「綾芽様、貴女のお帰りになる場所は、ここ以外にありませんよ?」

「そんなっ!勝手に…」

「申し訳御座いません」

深々と頭を下げる高月。

そこへ葛城が割って入る。

「お嬢様、申し訳御座いません。お車の中でご了承を頂いてからと思っておりましたが、生憎お嬢様が眠って仕舞われましたので、事後報告となって仕舞い、誠に申し訳御座いません」

「う………」

そんな大事な話の最中に眠って仕舞った自分も悪いと言えば悪い。

そう思うと綾芽は何も言えなくなった。

兎に角、退路は塞がれたと言う事だ。

覚悟を決めなければならない。

グッと拳に力を込めると綾芽はくるりと振り返った。

心配そうな面持ちで、綾芽達のやりとりを見ている人々の、姿がそこにはあった。

「お嬢様、この者達はお嬢様がお帰りになるのを首を長くして待っておりました。何日も前から、最初に振舞う料理のメニューに試行錯誤する者、お嬢様の為に部屋を整えたり、貴女の目に止まるかも知れないと、庭木の世話に精を出す者」

「お嬢様が袖を通される着衣を真剣に選ぶ者、少しでも快適に過ごして頂く為に寝具に気を配る者。此処に居る者達は、貴女にお会いするのを楽しみにし、心待ちにしていた者達です。そんな彼等を置いて、お嬢様はどちらに帰られるおつもりですか?」

「……!!」

こんなに大勢の人が自分の為に動いていた事に綾芽はまた驚く。

そして庶民育ちの性で、非常に申し訳なく感じた。

それを受ける価値が自分にはあるのであろうかと。

「今は未だ馴れないかも知れません。しかし、貴女がそれに見合う令嬢としての振舞いや作法等は私共がサポート致します」

「お嬢様!」

「何処にも行かないで下さい!」

「お嬢様!!」

自分が此処に住むことを拒んだら、此処にいる人達はどうなるのだろうか。

綾芽はふとそんな事を考えた。

解雇される者が居るのだろうか。

(私1人の為に不幸になる人が居たら嫌だな…)

そう思うと自分は此処に居るのが最良の選択なのかも知れない。

何せアパートは引き払われて仕舞ったのである。

後戻りは出来ない。

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