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お嬢様♡レッスン

第115章 別離の刻(わかれのとき)

「そろそろ行こうか?」

フレデリクの姿が見えなくなると、ウィリアムは綾芽に声を掛け、身体を屈めて彼女の顔を覗き見る。

そして身を起こすと『先に行って待ってるよ』と言って、彼女をその場に残して車に戻った。

綾芽は身動ぎもせず、声を上げずに静かに泣いていた。

唯、静かに。

とうとうと。

涙を流していた。

ウィリアムはそんな綾芽を見て、気が済む様にさせようと思ったのだ。

そして彼女にその様な涙を流させた弟を羨ましく思った。

彼女は自分に対し、そこまでの想いを持ってくれているのだろうか。

今まで散々、女性の心を弄んできた彼であったが、綾芽に対してだけは自信が持てない。

彼女の心の温かさは知っている。

自分達──特にフレデリクを放って置く事が出来ずに、記憶を取り戻したにも関わらず、そして恋人が迎えに来てくれたにも関わらず、帰国を伸ばした綾芽。

自分の為ではなく、弟の為。

それが切ない。

あの暑い国の闇オークションで彼女に再会した時。

そして記憶を失くしていると聞いた時。

もっと素直に自分の心を曝け出していれば、状況は変わっていただろうか。

フレデリクと彼女が出会わなければ、彼女の心は自分に向いてくれていたであろうか。

そんな事を思ってしまう。

しかし、あの時の自分はこんなにも彼女を愛してしまう等とは思ってもいなかった。

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