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お嬢様♡レッスン

第115章 別離の刻(わかれのとき)

東乃宮との取引が成立すれば、直ぐにでも日本に帰すつもりであった。

それなのに。

いつの間にか三人で居る事が心地好くて。

分かっては居ても、ずっと続けばいいのにと思わずには居られなかった。

でも、それも今日で終わりだ。

願わくば、自分との別離の時も、涙を流し、惜しんで欲しい。

車の中から、じっと佇む綾芽の後ろ姿を見つめながら、ウィリアムはそう願った。

やがて、綾芽は涙を拭う仕草をすると、くるりと踵を返し車に戻って来た。

「待たせてごめんなさい」

そう言って車に乗り込んでくる。

彼女の目には、もう涙は浮かんではいなかった。

「それじゃあ、空港へ向かおうか」

ウィリアムがそう言うと、ヘンリーは無言でアクセルを踏み込んだ。

綾芽を日本からやって来る、葛城に引き渡す為に。

車が走り出すと、綾芽はウィリアムの傍ににじり寄り、そっと彼の肩に凭れる。

そして彼の指に自分の指を絡めると『有難う』とそう呟いた。

「ウィルには沢山、感謝しているわ。私を救い出してくれた事。色々な体験をさせてくれた事。そして私を愛してくれた事…」

ぽつりぽつりと語る綾芽の言葉に、ウィリアムは黙って耳を傾けている。

「私ね、最初の頃はもし、記憶が戻らなくても、ウィルが居てくれたらそれでいいかなって思っていたの」

その言葉にウィリアムの目は見開かれる。

「貴方とずっと一緒に居られたのなら他には何も要らないかなって…」

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