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NAHEMA

第2章 本章

彼女が来なければ、バイトはただのバイトだ。

俺が休みの夜に、彼女が訪れるかもしれない。

ただ一心に、彼女に会いたい。

まるで初恋のような気持ちを抱えたまま。

俺は休むことなくバイトに出かけた。


それなのに。

俺の前に彼女が現れることはなくて。

あの夜、彼女から渡されたカードには、

彼女の携帯番号であろう数字が並んでいたけれど。

すぐに電話をすれば、若さをさらけ出すようで。

恋の駆け引きも知らないのかと、彼女に愛想をつかされるのではないかと気後れして。

彼女の香水の香りがするそのカードを毎晩財布からだし、

彼女を思い出しては始めの4桁だけダイアルし、

そして指を止める。

結局は自分から連絡することができずにいた。



彼女が姿を見せないのは、
俺のような年下の男を相手にするのに嫌気がさしたからか。

せっかく携帯番号を教えたのに電話もかけてこない意気地なしの男にはもう二度と会いたくはないのか。

結局俺は愛想を付かされたのか。

悶々とする日々が続く中。
彼女が久しぶりに店にやってきた。



やっぱり、きれいだな。

完璧なメイク。
美しく爪を彩るネイル。
彼女を包む甘い香り。
彼女の美しさを引き立たせるブランド品。

彼女に会う前まで心の中で渦巻いていたどす黒い思いは、
彼女の放つ美しい光で、浄化されていく。


カウンターのいつもの席に座った彼女に、俺はそっと会釈する。

ほかの客の相手をしている店長に代わって、


 「今日のご気分は?」


いつものようにオーダーを聞いた。


 「今日は、シェリーをちょうだい。」


意味は、知っているわよね?

長い睫に縁取られた彼女の目はそう語っていて。

俺は思わず目を伏せた。





だって。

シェリー酒。

その意味は。






「今夜はあなたにすべてを捧げます」


だったから。

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