誰かお願いつかまえて
第4章 俺はお父さんなんかじゃない
「はぁ…
何考えてんだよ、そいつ」
幸村に掛け布団をかけて俺はまたベッドに腰掛けた。
「頼むから…こいつのこと、これ以上傷つけないでくれよ」
シン、とした部屋に1人で呟く。
ダイチ、という男は何が目的なんだろうか。自分のせいで幸村が泣いているのを知っているんだろうか。
傷つけたかったのなら、もう十分彼女は傷ついた。なのに、なぜ追い打ちをかけるように結婚式の日を幸村の誕生日と合わせたんだろう。
膝の上で拳を握りしめた。
「だいたい幸村にむかって"恋愛対象として見れない"とかありえないだろ」
男に媚びないしすぐ泣かない。気が利くし話も上手い。仕事だってできる。
まぁ、ひっくり返せば短所なわけだが。
本人も言うように確かに幸村は華奢ではない。筋肉でスッと引き締まっている脚や腕は決して太くないし、 ウエストもくびれている。
無駄な脂肪は見当たらない。
しかし、胸はある。
こんなときに、と思うがさっき抱きしめた感覚が蘇る。
「あー、何考えてんだよ俺も」
バフ、とベッドに横になるとすぐ近くで彼女の吐息を感じて振り向く。
むだな化粧などいらない長い睫毛。今は閉じているが大きな茶色の瞳。肩まである染めていないという、瞳と同じ色の髪。綺麗な肌に柔らかそうな唇。
(だめだ…)
俺は体を起こして再び幸村に背を向ける。
身体だけで好きなわけじゃない。それに失礼だとは思うが、男が一目惚れするような綺麗な女ではない。
彼女の真っ直ぐな様子や笑顔に一緒にいればいるほど惹きつけられるのだ。
入社当初は確かにただの後輩だったのに。
「いつからだろうな……」
酒を飲んでフラフラになっている幸村を他の男たちの目に触れさせたくないと思ったのは。
先方に嫌味を言われても笑っている彼女を守りたいと思ったのは。