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第9章 バイト初日

「所長とハナさんって『きょうだい』ですよね?どっちが上なんですか?」

俺は書類の束を仕分け始めながら、色々と尋ねてみた。

所長は、ソファに横になりながら、クロスワードを解いている。

「ん──?ハナが姉。俺が弟」

「やっぱり…」

「お前、俺の方が小さいから弟だと思ったんだろ?」

所長が身を起して、俺を睨んで来た。

ひえぇっ!

何か殺されそうなくらい、凶悪な目なんですけどっ!!

「いえ…決してそんな事は…」

俺は所長の視線を避けるように書類を見る振りをして下を向く。

「精神年齢は俺の方が上だからな!」

「いや、だからそんな事は聞いてません」

「ふん!」

どうやら、所長は背が低い事を気に病んでいるらしい。

そりゃそうだろうなぁ。

それさえなければ完璧な美形だもんなぁ…。

「お前、また俺の身長の事考えただろ?」

「いやっ!そんな事は…」

何なんだ、この人。

人の心の中、読めるのか?

「読めはしない。感じるだけだ」

うわっ!また読まれた。

「だから、読んでるんじゃなくて感じてるだけ!」

「それを読んでるって言うんじゃないんですか?」

「『読む』ってのは意思的な事だろ?『感じる』のは意識しなくてもそうなっちまうんだよ」

「じゃあ、所長は色んな人の心を感じちゃうって事ですか?」

「まぁ、そうなるね。逆に意識して感じないようにしてる」

「何か大変そうっすね」

「ああ。大変だよ」

世の中には不思議な力を持った人が居るんだなぁ。

そんな事を思いながら、俺は暫く無言で仕事に集中した。

そうしないと所長にまた心を感じられてしまいそうだったから。

「よし!出来た」

山の様にあった書類を何とか仕分けし、ファイルに閉じ終えた。

時計を見ると22時を回っていた。

「うわっ!やべぇ!もうこんな時間!!」

「ん~?ご苦労様」

目を擦りながら、所長がソファから身を起こした。

どうやら寝ていたらしい。

「すみません。付き合わせちゃって。もう終わりましたから、帰りましょう」

「ああ、もうこんな時間か…。ご苦労様。もう帰っていいよ」

「所長は?帰らないんですか?」

「ああ、今日はここに泊まり」

「マジですか?出るのに?」

「出ても、俺に影響ある訳じゃないし」

「怖くないんですか?」

「別に?生きた人間と同じだよ」

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