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第12章 対峙

「その前に…。マスター!コーヒーのお替り頂戴!」

所長がカウンターの中に居る、店主に向かって声を掛ける。

ここは、事務所の傍にある、所長達が良く利用する喫茶店で、今は俺達以外にお客はいない。

マスターがコーヒーのお替りを持って来てくれ、再びカウンターに戻って行く。

所長は淹れたてのコーヒーを一口含んで飲み下すと、もう一度恋奈に尋ねた。

「彼を巻き込んだのはキミだ。彼にも知る権利がある。そうじゃない?」

所長がそう言うと、恋奈はカップを見つめながら小さく頷いた。

所長はもう一口、コーヒーを飲んだ後、口を開いた。


………━━━━━

話は今から6年くらい前に遡る。

とある女子高生が、ある河川敷で遺体となって発見された。

検死の結果は衰弱死。

死後3~4日。

手足には無数のタバコの火を押し当てられた痕。

そして爪は殆ど残っていなかった。

腹や背中には、棒状の硬い物で殴打した痣。

顔は火傷で水膨れが酷く、髪の毛は殆どない状態だった。

そして恐ろしい事に、それはバラバラにされていたのである。

DNA判定の結果、彼女の身元が判明。

彼女の名は明石麗美(アカシ レミ)。

都内の高校に通う1年生。

小柄で器量の良い女の子だった。

部活を終えて学校を出たところまでの足取りは分かっていたが、忽然と姿を消しており、遺体発見の3か月くらい前に両親から捜索願いが地元の警察に提出されていた。

遺体の損傷は激しかったものの、彼女の身体の中からは、多数の他人のDNAも検出された。

犯人は12~13歳の少年達5名が主犯格で、他にも彼女に暴行を加えた者が十数名居たと言う。

彼等は刑事責任を問えない年齢だった為、少年院送りとなった。

彼女の母親は絶望の余り発狂。

その後、自ら命を絶ち、残された家族は地方へと引っ越して行った。

━━━━━━………

「もう、分かるよね?これが誰に関連してるか」

所長はそう言うと、また一口コーヒーを口に含む。

「って、何泣いてんの!?」

所長が俺の顔を見て、吹き出しそうな勢いでそう言った。

「え?」

俺の事?

気が付けば、俺は恋奈の手を握り締めて目から涙を零していたらしい。


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