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第13章 恋奈の異変

「何がおかしいんです?」

首を傾げている所長に尋ねる。

「恋奈さんの…魂が感じられない…」

「えっ!それって…恋奈は…」

所長の言葉に俺は目の前が真っ暗になり、立っている事もおぼつかない。

フラフラと崩れ落ちる様にして床の上へと座り込む。

「何でだろう…。彼女は生きているのに…。ひょっとして…抜け出て何処かを彷徨っているのか?」

「そんな事…俺に分かるわけないでしょう!」

俺は髪を掻き毟りながら所長の独り言に言葉を返す。

所長は俯いて少し考え込むと、突然ハッとした様に顔を上げた。

「そう言う事か!」

そう言うと所長は凄い勢いで、事務所から出て行った。

俺は呆気に取られて、それを追いかける事が出来ない。

ハナさんは、いつもの通り平然とした顔で、所長が出て行くのを見送っていた。

「なっ!ハナさん!所長を追い掛けなくていいんですか?助手でしょう!?」

俺が焦ってそう尋ねると、ハナさんは『多分、家に帰っただけだから』と何食わぬ顔をして言った。

えええええっ!?

恋奈はっ!?

魂がない状態で放置かよっ!?

「心配するな。彼女を何とかする為だ」

ハナさんは落ち着いた様子でそう言うとミニキッチンの方へと歩いて行く。

カチャカチャと食器がぶつかる音がして暫くすると、ハナさんがマグカップを持って来て俺の目の前に置いた。

「まぁ、これでも飲んで待ってな。ハルは乗り掛かった船を沈める様な事はしない。絶対に目的地まで届ける。だから信じて待ってな」

そう言ってハナさんは、自分のカップに口を付けた。

恋奈は相変わらず目覚める気配はない。

しかし、小さく胸が上下しているのは、呼吸をしている証拠だ。

だから彼女は生きている。

その事だけが救いだった。

「冷めない内に飲め。温かい物を飲めば落ち着く」

ハナさんはぶっきらぼうにそう言うと、またカップを口に運ぶ。

ハナさんなりの優しさなんだな。

俺はカップを手に取ると、まだ湯気の立つそれに口を付けて一口飲む。

少し熱くて甘いココアが少しだけ俺の心を解してくれた。

俺は恋奈の手を握りながら、祈る様な気持ちで所長が帰ってくるのを待つ事にした。

しかし、そんな俺を見てハナさんは『どうせなら働け』と言って書類の束とファイルをどっさりと俺の前に積んでくれやがった。

そんな気になれねぇっつうの!

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