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第14章 捜索

ハナさんは注連縄に鈴を幾つか取り付けると、準備が整った事を事務所の奥にある小さな別室に居た所長に告げる。

そんな部屋があったなんて、俺はこの時初めて知った。

呼ばれた所長は、結界の中に座ると『んじゃ、行ってくるわ~』と軽く言い、どさりと床の上に転がった。

え?

もう、幽体離脱したの?

そんなあっさり?

俺は驚いてキョロキョロと辺りを見回す。

だけど、霊感がない俺には所長の姿は全く見えない。

「ハナさん?所長、居るんすか?」

俺は横に立っているハナさんの顔を見上げる。

「ん…。まだ居るみたい。でも段々気配が遠くなってる…」

ハナさんも見える人ではないから、所長の姿は見えないのか、気配だけを感じている様だ。

「多分、この部屋からは出たみたい。気配が分からなくなった」

そう言うとハナさんは、結界の中の所長を見つめながら、近くの椅子に腰を下ろした。

「直ぐには戻って来ないだろうし、あたし1時間程寝るから」

そう言うとハナさんは、目を閉じて椅子に凭れて直ぐに規則的な寝息を立て始めた。

早っ!

寝るの早ッ!!

ハナさんが眠ってしまうと、手持ち無沙汰になった俺は、恋奈の傍らに座り彼女の頬を撫でる。

どうか、無事で居てくれ。

怨霊なんかにならないで。

俺は、恋奈の手を両手で包み込み、自分の額に当てると必死に祈る。

俺の想いが届いて欲しい。

お姉さんの恨みは所長が晴らしてくれるって言ったじゃないか!

だから恋奈は何もしなくて良いんだ。

負の感情に囚われないで。

俺は俯きながら、必死に心の中で恋奈に話し掛ける。

すると、”チリン”という鈴の音が微かに聞こえた。

え?

風かな?

でも、それなら今まで聞こえなかったのは何故なんだろう?

その内、幾つも取り付けてある鈴が俺の背後で”チリン!チリン!”と一斉に鳴り出した。

どういう事だ!?

まさか、所長の身体を狙って…?

ヤバイよ。

怖いよ。

振り返れないよ…。

見えなければ何とも思わないが、こうして何かの現象を起こされると、その存在を意識してしまう。

でも、背中を向けていたら取り憑かれないだろうか。

俺はよく呼び寄せるらしいから…。

所長に言われた事を思い出す。

俺は暫く心の中で葛藤した後、意を決して後ろを振り向いた!

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