いつまでもここに居て
第9章 僕と君の幸福論[21]
アトリエをキョロキョロする櫻井さんに人物の抜けたキャンバスを見せた。
「これ…なんだかわかりますか?」
「わっ…わからない、です。けど、この水色?すごく綺麗ですね」
乾いてないキャンバスに手を触れようとする櫻井さん。
「ちょ…!!手を触れちゃ…!」
キャンバスに触れた櫻井さんの手はズブズブと飲み込まれていった。
「大野さん。俺…昨日ここから出てきたんだ。驚かしちゃいけないって思って黙ってたんだ。騙しててごめんね。」
「うん…ちょっとびっくりしたけど…わかってたよ。昨日僕は君の事がわからなかった。」
「俺は櫻井翔。23歳、とある女性に恋したまま振られて、そのまま車に跳ねられて死んだ。好きなものは蕎麦。」
「そ、蕎麦?」
「うん。蕎麦。」
「なんでだろう…もしかして昨日蕎麦食べたいなあって思ってたからかな。」
「なんでだろう?産みの親は君だからじゃない?君が思ったものを具現化したのが俺なのかな。やっぱり…アシスタント…にさせてもらえないかな?やっぱり絵から出てきたやつには無理?」
「ううん…嬉しいよ!是非やって欲しい。僕の世界にようこそ。絵の世界とやっぱりここは違う?」
「ありがとうございます…ううん。ここと変わらないよ。むしろここは匂いや感触、聴覚があるし、とても楽しい。」
「それは良かった。」