いつまでもここに居て
第5章 ひまわりの約束[21]
次の日。
「あ、そういえば看護師さん。」
「はい?なんでしょ?」
方言が交じる看護師さんに俺は声をかけた。
昨日智くんが書いていたあの向日葵を見てみたくなった。
「確か何処かから向日葵が見えるそうですね。」
「あ…。」
「?」
「あのですね、その向日葵は…」
ーーー
夜バタバタと廊下を走り抜けた。
【農作物の不足のためにとっくのとうにもうないんですわ、】
そう言われて愕然とした。
来る前に沢山買った向日葵を持って。
夜の廊下をはしたなく走り抜けた。
「智くん!!」
「あ、先生。…向日葵ですか?窓から見えるところから引っ張ってきたんですね。いけないんだ…」
ガラガラと思い切り戸を開けた。
ノックすることも忘れた。
手に握られた向日葵を見てくすくす笑う智くんをみて悲しくなった。
ーー
やっぱり。記憶が途中でなくなっている。
向日葵がなくなったのは3年前だ。
そんなひまわりを完璧に描きあげる智。
「ちがう、智くん。よく聞くんだ。向日葵は…」
「…?先生は見えてるんじゃないの?」
「は?」
「向日葵。まだ沢山咲いてるんだよ。俺に頑張れって。まだ…」
「大丈夫だから…ごめん、」
ベットに横たわっている智くんをぎゅっと抱きしめる。
「ちがう、先生。俺が可笑しいんだ。みんな言うんだよ。みんなおいらを気持ち悪がる。図鑑ですら見た事も無いものをまるで見たことあるかのように描くって。…どうして君がなくの、まだ俺は泣いてないのに。辛くないのに。先生、俺いつまでここにいるの。先生、」
僕は智くんの言葉を聞いて子供のように泣きわめいていたのに、僕を逆に抱きしめられているようになっていて、僕の頭を撫でてくれていた。智くんは涙なんて流すことなく、淡々と自分のこれからの先を理解しているかのようで、僕よりも智くんは大人だった。