
いつまでもここに居て
第5章 ひまわりの約束[21]
「智くん。」
その夜も智くんの部屋に訪れた。
お昼は沢山の負傷者が、運ばれてきた。前よりもずっと増えてきた。
疲れがどっと出ているが、智くんとどうしても話がしたかった。
「何?先生。」
「君はもう少し弱くなってもいいと思うんだ。」
「なんで?」
「先生さ、凄く涙脆いから智くんが涙脆くないと面目ないんだよ…」
「ふふ…先生可愛い所あるんだね。」
「う、五月蝿いなあ…!」
小さな灯りの中。棚にある花瓶に生けられた向日葵のように僕たちはたくさんの事花を咲かせて話した。
メンコのこと、缶けりのこと、ベイゴマに練り飴。
僕は精一杯智くんが笑ってくれるように面白おかしく話をする度に智くんは1度でいいから外に出たい。と言い出すようになっていった。
「智くんはね。病気で外に出たら大変なことになっちゃうんだよ。」
「知ってるよ。けどね。俺…そろそろ終わりだと思ってるんだ。」
「何が…」
「最近、凄く沢山の患者が来て、沢山怪我してて、入院しても一日で居なくなる。外で何かが起こってる。それが何かって事はわからないけど、いつか巻き込まれるって事はなんとなく…見える。だからね、先生。ちーとでいいんだ。死ぬ前に1度でいいから外に出たい。」
「智くん…」
ゆらゆら夜風に揺られる向日葵。
外から見える景色は、まるで、戦争なんて起こってないんじゃないか。って思ってしまうほど綺麗だった。
必死に必死に月の光でも良いから。そう思っているのか向日葵は月光に向かって綺麗に咲いていた。
「ま、そんな事言っても結局出れないんだけどね。先生、続き、聞かせてよ。」
ぎゅ、と手を握られた。
日光を浴びていない小さな手。
その手に元気を貰い、僕は「そーだね、」と微笑むとまた話を始めた。
こんな会ってばかりの子にこんなにも元気を貰うなんて思ってなかった。
話をすればしていくうちに彼になにか不思議な感情が
芽生えたのはまだ頭の固い僕には分からなかった。
