
いつまでもここに居て
第5章 ひまわりの約束[21]
「先生…外だよ。外だ!空が高いよ。鳥だ。あれは、」
「はしゃぐのもいいけど、気をつけろよ。」
「うん!」
病院を出るのには時間がかかった。
先生不足のなかで智くんはともかく俺が隙を狙うのがどうしても大変なことだった
「智くん、何がしたい?」
「うーん…」
「よし。そしたら広島に行こう。そこなら智くんが欲しい物、見たいものも多分沢山見れると思うから。」
「うん。電車に乗るの?」
「そうだ。ちんちん電車だよ。」
食べ終わった智くんに指さしたのは緑の小さい電車。
そう。ちんちん電車だ。
「はい。料金ね。」
「まいど。」
料金を払う前に椅子に座った智くん。すぐさま隣に座ると
「先生…!見て、あれ何…これは?!」
と見た事もないようにキラキラと目を輝かせた智くん。
「いっぺんに聞かれても困るよ…まずあれね。あれは呉服屋さん。で、あれは工場だ。で、あれは…警察…」
警察署を見るとなにか騒がしかった。
警察官に訳を話しているのは病院の仲間だった。
多分僕を探してるんだ。見つかるのも時間の問題だろう。
「先生…?」
「あっ、何?」
「大丈夫?」
「智くんこそ。」
焦りを隠して、ふふと柔らかく微笑む。
ガタンガタンと進んでいく。電車は僕達を守ってくれていた。そんな気がした。
「広島に着いたよ。」
「凄いね…広い…!」
広島に着くと智くんは更にはしゃいだ。
「せっかくだし、鉛筆とノートを買ってあげよう。お菓子も買ってあげる。」
「本当に…!?」
「うん!」
まるで智くんは元気だった。病気なんて嘘の話かとそう思ってしまう程に。
でも、たまに咳き込む時や、極度な息切れ。
それが多くなってきていた。
僕は発作が起きないように手を繋いで歩いた。
鉛筆とノートを買ってもらった智くんはゴキゲンだった。
最初はお金を知らない智くんは袴の袖に鉛筆やノートを詰めていて焦った。
「智くん。お金はこうやってノートや鉛筆。欲しい物を買う時に出すんだ。お姉さんに出して。」
お金の意味もわかってない智くんはすべてのお金を差し出した。
困った顔をするお姉さん。
「すいません…この子ちょっとあまり外に出たことがなくて…」
そう笑ってやると、お姉さんは軽く納得したのか「大丈夫ですよ」と笑ってくれた。
「あ、後一つ…ここら辺で…」
最後に質問をして、ぺこりとお辞儀をすると、そのお店を出た。
