
いつまでもここに居て
第5章 ひまわりの約束[21]
「潤さん、これ幾らですかね。」
「あー、これか…これはもうこれが最後で値下げとかは出来ないんだよね…ごめんよ。」
「そっか…すまんなあ…いつも値切っちゃって。」
「大丈夫。俺も足の怪我で戦争に行けないから大変なんだよね。お互い頑張ろう。明日の為に。」
「そうね」
聞こえる質屋さんの声。
「いらっしゃーい!今日は珍しい西瓜!西瓜が入ったよ!今日はどーんと負けてあげる!誰かどう!?」
「あらー。雅紀くん。赤紙はまだ来てないの?」
「あー!中川のおばちゃーん!あのね。昨日来たよ。八月六日に行くことになりました。」
「ありがたいなあ…お国の為に頑張ってくるんだよ。」
「う、うん。ありがとう。おばちゃん泣くなって…大丈夫だから。」
「うん…なら!お祝いせんとな!西瓜一個買うわ、!これお釣り要らないから皆で上手いもんでも!食いなさい!」
がやがやと楽しそうな声が聞こえる八百屋。
「和也…行かないで、」
「そういうこと外で言っちゃダメだ。母さん。大丈夫。明日。落ち着いたら手紙を書くよ。絶対だ。硫黄島は良いところと聞いた。だから楽しみにしていて欲しい。では。行ってきます。父さんも多分母さんを置いて行ってさみしがっているだろう。母さんは強い。だから泣くな。」
「和也…貴方まで泣かないで…私頑張るから…」
家族の別れを惜しむ声。
その沢山の声をすれ違う度に見ると皆涙を流していた。ただ、八百屋の奴は笑って対応していた。
泣いてるおばちゃんの中で、ニコニコと笑顔で対応している姿は、背中にいる智くんにも似ていた。
なにか我慢している顔。顔には出ないけど、相手をさらに心配させないように流さない涙。
そんな沢山の声を背後に病院へ向かう。
疲れ果てた身体はペースを落とし、
その途中で警察に捕まり、警察と一緒に病院へ9時頃帰ったが、僕らには長い長い一日になった。
もし逃げ出していなければ、智くんは多分一生外へ行けなかったし、僕は終わらない患者を一日診ることになっていただろう。
ガラクタだったはずの今日が。
見違えるように輝いた。
僕1人じゃ得られない。
ふたりだからこそ宝物になる。
夜中に病院に帰った僕らは疲れを忘れ、鍵を締められた病院の前で今日のことを沢山話した。
「どうせ、明日怒られるんだ。今だけは楽しい話をしよう。」
そう言いながら明け方まで今日の出来ことをたくさん話した。
