
いつまでもここに居て
第5章 ひまわりの約束[21]
次の日。出かけたことを後悔した。
智くんの部屋は綺麗に片付けられ、違う患者…それも八人くらいの負傷者がぎゅうぎゅう詰めにされていた。
「智くんがわがまま言ったんですよね?そうですよね?私は医師に止めたんですよ?けど…」
僕は看護師にそう言われた。
病院では智くんがわがままを言ったことになっていて、智くんは熱があるのにも関わらず、
「お国の為に頑張ってくれている先生を連れ出すとは…!」
と何度も何度も平手打ちをされていた。
僕は平手打ちをされない代わりに智くんに対する暴行を止めることは出来ず、そのまま診察室に閉じ込められ、夜もぶっ通しで智くんに会えないぐらいに沢山の患者を看た。
患者達は目も当てられないほどで、負傷者も多いのだが、栄養不足による下痢なども沢山いて、薬が供給されていない病院ではもう手当の仕様がない。
「あの智くん…?大変よね、あの先生を誘って…」
「正直、お金があるから部屋を貸していたけど…もう負傷者を入れておく所にも困っていたし…」
やっと、許されたお手洗いの中で、
そんなぼやきが聞こえた。
…熱が出ていた智くんがすごく心配だ。
部屋のない智君は今どうしてる?
智くん、智くん。
どんどん気持ちは大きくなり、真夜中仕事が終わるとすぐさま智くんを探しに行った。
1階の掃除置き場の隅。
「先生…大丈夫。俺平気だよ。ちょっと痛いけど…あのね、ちゃんとカバンは守ったよ…先生がくれた大切なもの沢山入ってるから…でね、俺の先生は…」
驚愕した。
水浸しになった智くんは空中にまるで俺がいるかのように話をしているのだ。
多分緊迫していた医者たちの怒りの矛先が智くんに向いたのだろう。
近くに空のバケツが置いてあって、多分これで掛けられたのだろうか。
「智くん…!!!!あ、凄い熱だ…早く手当を…」
「あれ、先生。先生が二人いる…ふふ。」
「何言ってるんだ…!!先生はここにしかいない…!!」
「違うよ…ここにカッコイイ衣装を着た先生が居るんだ。先生はね、すごい大学を出て、皆に愛されるスターになってるんだって…」
指さしたのは空中。
誰もいない。
そして、俺は大学なんて出ていない。
父親から全ての知恵を貰ったのだから。
「ああ…そうか、僕がスターか…いいな、後で話を聞こう…とりあえず手当てを…」
そう言って静かな廊下を走り抜けた。
