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いつまでもここに居て

第5章 ひまわりの約束[21]


「ここしかないけど…ここで我慢して欲しい…」
「は…はっ…せんせ…」
広い掃除置き場を掃除し、シーツと座布団を敷きベットがわりにした。
そこに智くんを乗せ、心拍数をみてやる。
心拍がすごく早い。薬があれば1発で治るはずなのにそんな薬すらもこの病院には無い。

「大丈夫…大丈夫だから…」
「う…うん…先生…またお話してよ…」
「うん、する。するから。元気になってくれ。お願いだから…」
ぼたぼたと涙をこぼす俺の頬をまた優しく撫でてくれた。
智くんの手はすごく熱くて、俺の涙までも暖かくしてくれた。
「どうして先生が泣くのさ…まだ、俺泣いてないのに…」
「智くん…智くん…」
「大丈夫。大丈夫だから。これじゃどっちが辛いのかわかんないじゃないか…」
「ごめん。ごめん…」

止まらない涙を優しく見守ってくれた智くん。
「あのね、昨日思ったんだ。人は…優しくなれると涙が出るんだね。昨日の男女もお互いを優しくしてたんだよね。昨日帰り道で泣いてた人も、先生が泣くのも…優しい気持ちがあるからだよね…」

どんな時でも泣かなかった智くん。
そんな彼が涙を流した。
「ありがとう…僕も…いつかちゃんと先生みたいに優しくなりたい。先生…また向日葵見に行きたい…」
「うん。行こうな。行こう。今度はもっと広い向日葵を見に行こう…」

そう約束してキスをした。
触れるだけのキス。

こういうのは男女でやるものなんだ。
けど。そんなの今関係ない。
ぐちゃぐちゃになった顔をすり寄せて涙を流した。

智くんは熱に浮かされていたのか、僕が立ち去ろうとすると「行かないで」と泣いた。

「はい…これ…」
必死そうに僕が昨日あげたお金を渡してきた。
「欲しいものがある時はお金を払うんだよね。先生…」
「はは…僕は物じゃないんだけどなあ…」
ぐしゃぐしゃになったお札を受け取ると精一杯笑った。

「ありがとう…大丈夫だから。また明日会おう。約束だ。こんな大金を貰ってるんだ。絶対、明日会おう。」
そしてもう1回キスをした。

僕もそばにいたいよ。君のために出来ることが 僕にあるから。
いつも君に、ずっと君に…笑っていてほしいから。

初めて彼がわがままを言ってくれた日だった。
そんなわがままがとてもとても嬉しかった。



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