DAYS
第27章 時計じかけのアンブレラ Ⅰ S×A
その直後だった。
ばんっと何かがぶつかる鈍い音。
ガラスが割れる音。
誰かの叫び声。
遠くから聞こえてくるサイレンの音。
あんなに静かだった夜の路地に
たくさんの音が響いてて。
響いてるはずなのに。
何も聞こえてこなくて。
何も見えなくて。
先が真っ暗になってて。
何が起こったのか、
まったく分らなかった。
ようやく音が戻ってきて、
ぱっと視界が開けて。
見てみれば、
地面に倒れ込んでいる雅紀。
「大丈夫ですか。聞こえますか。」
救急隊員の人たちが、
何度も何度も雅紀に呼びかけてる。
…何してるの?雅紀。
そんなとこで寝てちゃダメだよ。
風邪、引いちゃうよ?
雅紀さ、体弱いんだから。
バカだなぁ。もう。
また転んだの?
いつも言ってんじゃん。
足元ちゃんと見ろよって。
そそっかしいんだから。
だけど雅紀は、いつまでたっても
起きる気配がなくって。
「…雅紀?」
やっと重い一歩を踏み出して、
雅紀のほうへと駆け寄った。
「ちょ、入らないでください!」
「自分の連れです!」
救急隊の人の阻む手も押しのけて、
雅紀へと近づく。
「雅紀?雅紀!」
近くにきて分かった。
何が起こったのか、
状況が鮮明に思い起こされてく。
地面に流れていく血が
そのすべてを物語っていて。
「お連れの方ですか?
乗り込みますか?」
「乗ります。」
俺と雅紀を乗せて、
病院へと走り出す。
「雅紀。雅紀。」
どれだけ呼びかけたって、
返事はなくて。
紅く染まったシャツが、
俺に現実を叩きつけてる。
雅紀のあの取り乱し様が
頭の中にこびりついてる。
何度も頭の中で、リピートする
雅紀の言葉。
病院についてから、
手術室に入ってく雅紀を見送って。
手術中のランプが点灯する。
事務所に連絡を入れて。
メンバーにも連絡を入れて。
ランプの紅い色が、
血の色を思い出させて。
頭にずっとずっと響く言葉。
雅紀が走り出す直前の言葉。
『ごめんね…裕くん…。』