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DAYS

第27章 時計じかけのアンブレラ Ⅰ S×A











「あ…。」
「…ちょっと外します。

すぐに戻ってきますから。」



俺が情けない声を出した頃には、
もうニノは走り出したあとで。


やがて、パタパタと響く足音は消えて
また静寂が戻った。


また1人になった廊下は
怖いくらいに静かだった。



「何やってんだよ…。」




いくら焦ってたからって。

いくら動揺してたからって。


ニノを傷つけていい理由になんて
ならなくて。


だけど自分では、もうどうにも
出来ない感情があって。

それを誰かにぶつけたくて。


永遠に出られないループへと
はまっていく自分が滑稽で。


それがまた俺を堕としていく。



「やっぱり探しに行くべきか。」



今すぐ謝ろう。

ニノは何も悪くない。
俺の気持ちの持ち方しだいなんだから。


だけど、どうしてもこの場を
離れたくない気持ちもあって。


少しでも雅紀の近くにいたい。

ここにいるよって、
少しでも想いが届くように、
少しでも近くにいたかった。



どうしたもんかと
考えて考えて。


頭をガシガシとかいていると、


「翔さん。」
「え…。ニノ?」
「何でそんなに驚いた顔してるんですか。」


俺はおばけじゃないですよーって、
くすっと笑ってるニノの姿。


その姿にとにかく驚いてて、
自分でもまぬけな顔をしてるなって
分かった。



「だってさっきー…」
「大丈夫ですって、言ったでしょ?
翔さんも取り乱してるのが
分かりますから。

はい。」


これで少しは落ち着いてください、と
ニノが差し出したのは缶コーヒー。



「あ、ありがと。」
「いえ。」


受け取ってみれば、


「冷たっ。」
「そうです。冷たいほうが
ちょっとは頭が冷えると思いまして。」


いたずらっぽく笑ったニノの顔。

その笑顔に、今日の楽屋での
哀愁はなかった。


俺の気持ちを少しでも楽にしようと
してくれているニノの気遣いだと分かって。


「まださみぃよ…。」


そうは言っても、俺の心は
ニノの優しさでちょっと温かくなった。




「ありがとな…。」
「ん?何か言いました。」
「いや、何も。」

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