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DAYS

第27章 時計じかけのアンブレラ Ⅰ S×A









雅紀が目の前に立ってた。

ひどく悲しそうな表情を浮かべて。



何でそんな顔してるの?

知ってるよ。
その顔、もうすぐ泣く5秒前の顔。


そんな顔しないで。
俺に笑顔見せてよ。





「雅紀ー…」



名前を呼んだけど、
くるっと俺に背を向けると、

違う男のほうへと走っていった。


いくら呼んでも、振り向いてはくれない。


声が枯れていくだけで。

まるで俺のことなんて見えてないように。
空気と同じ存在なんだ、雅紀には。



雅紀の声がする。

誰かの名前を呼んでるみたいだった。

嬉しかった。
きっと俺の名前だから。



だけど、違ってた。


雅紀は嬉しそうに、何度も何度も

『裕くん。』

そう呼ぶんだ。


俺には悲しそうな顔をしてたのに、
嬉しそうな顔をしてて。


何なんだよ。
俺だけ見てろよ。

何でよそ見なんてしてんだよ。

好きって言ってくれたじゃん。
嘘だったの?



「雅紀!」


今までで1番、大きな声が出た。

雅紀がぱっと俺のほうを見る。


「雅紀…。」


それだけで嬉しくて。

ついつい笑顔になって。


なのに、

「翔。ごめんね。」


そういって、雅紀は離れてく。


ソイツと腕を組んで。

ソイツの顔を嬉しそうに見上げて。

ソイツに最高級の笑顔を見せて。



「待って!雅紀!雅紀!


お願い、置いてくなよ!
戻ってきて、お願い…。

雅紀を連れていくな。
やめろやめろやめろやめろ。」








「やめろよ!!」


ばっと、体を起こす。

…夢?


汗をびっしょりとかいていた。

服が肌にはりついて気持ち悪い。



誰か、慌てて部屋に入ってくる音が
入口のほうからした。


「翔くん!?」
「え…。あ、智くん…。」


手には、タオルとペットボトル。


「大丈夫?
叫び声が聞こえたけど…。」
「あ…。大丈夫。」

「悪い夢でも見たんでしょ?

すごい汗かいてたから…。
タオルと水、持ってきたよ。」



渡された水は冷たくて。


その冷たさをリアルに感じて、
やっとあれが夢だったと分かった。

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