DAYS
第30章 時計じかけのアンブレラ II S×A
相葉さんは、何も覚えていなかった。
どうしてここに来たのかはもちろん、
自分の住んでいたところも。
自分の親のことさえも。
そして、メンバーのことも。
自分が、「嵐」のメンバーだってことも。
たった1つだけ覚えていたことがあった。
それが、俺のことだった。
「ねぇ、ニノ。
俺、何でこんなところにいるんだろ。」
真っ直ぐすぎる瞳が俺を見ていて、
言葉に詰まった。
本当のことを言うべきなのか。
「…バカだな、覚えてないの?
ちょっとつまずいて、バランス
崩しちゃって、頭打ったんだよ。」
「そっかぁ…。
だからか、頭がズキズキするの。」
「痛む?」
手を握り直して、
ゆっくりと撫でながら言うと
「んーん。大丈夫だよ。
ニノ、ありがと。」
そうやって、笑った。
その相葉さんの笑顔は、
見たことがないものだった。
柔らかくて。だけど、格好よくて。
可愛くて、どこか儚げだけど
でも優しくて。
たったそれだけのことなのに、
涙が出てきた。
「え!ニノ?大丈夫?」
俺の涙に驚いて、
相葉さんがベッドから急に体を起こすと
「ってぇー…。」
「ちょ、相葉さん!?
大丈夫?」
「…やだ。」
「え?」
「いつもみたいにちゃんと呼んでよ。
まーくん、って。
呼んでくれてたのに…。」
さっきまで、痛みにまゆを
寄せていたのに、
唇をきゅっと尖らせてる。
急にそんな顔をする
コイツは本当にずるいヤツだ。
だけど、記憶がなくなって
こんな時間を俺だけが過ごせると
思うと、ケガをしてくれてよかったと
思う俺は、
もっとずるいヤツだ。