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金魚鉢の金魚

第1章 金魚鉢の金魚

「落ち着いた?」

 私が泣き止むと翔ちゃんは私の好きなミルクティを入れてくれた。

「ありがと」

「何があった? 花が唇を触る時は何かあった時。おかえりって言った時の仕種」

 翔ちゃんはそんな小さな私の癖まで見てくれていたのか。

 私は、最近あったお客さんからのクレームのこと。学生時代から書いている小説が巧く書けなくて、些細な一言で落ち込んだこと。最近の思っている親への申し訳なさや、自分が結婚に逃げて就職しなかったのではないかということ。そして、最後に、

「こんな私なのに翔ちゃんは私と一緒にいてくれるの? 周りがキモチワルイって言う出目金みたいな私。出来損ないの私」

 翔ちゃんは悲しそうな顔で俯いた。そして、立ち上がると金魚鉢を見た。私も立ち上がって、翔ちゃんと同じように金魚鉢を見る。

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