キョウダイ
第19章 悠ちゃんの生活
休み時間になった瞬間、真理ちゃんはあたしを待つ事もなく、足早に歩き出す。
教科書とか片付けて、慌てて真理ちゃんの後をついて行く。
真理ちゃんとの距離が少しも縮まらない。
屋上に向かう階段も、駆け上がるのに、真理ちゃんの方があたしより背が高いし、スマートだから、追い付けない。
キイ、という屋上のドアの音がやけに響いた。
金網のフェンスに近付く真理ちゃんが、ゆっくり振り返る。
その綺麗な瞳が赤く腫れている事に、気付いた。
「あたしと悠ちゃんね、セフレだったのよ?」
ふっと笑いながら、あたしを見据える。
「……えっ?」
息を整えるあたしの足が凍り付く。
「悠ちゃんに葵ちゃんを好きだと言われたけど、あたしは諦められなかった、だから、体だけでもいいから抱いて欲しいって頼んだの……。
悠ちゃんはあたしを拒んだけど、あたしがそうさせなかった。
……初めてだったけど、悠ちゃんは優しくて……全部、教えて貰ったの……」
「……」
頭の中が真っ白になった。
「悠ちゃんは葵ちゃんの事を諦めようとした事もあった。
だから、あたしの体を使って、忘れて貰おうと思って、あのアパートに毎日通ったのよ?
毎日毎日エッチしたのに……急に電話一本でもう、来なくっていいって言われて……酷いと思わない?」
「悠ちゃんが……真理ちゃんと……?」
「……思いもしなかった?
あたし、言ったよね?
葵ちゃんよりもっと前から、あたしは悠ちゃんとずっと幼馴染みで、大好きで、諦められるわけないし、あたしが何もせずに、指をくわえて待ってる訳ないじゃない?」
真理ちゃんの赤い瞳から、涙が溢れる。
「葵ちゃんなんか後から急に現れて、赤の他人なのに、妹とか言われて、悠ちゃんの隣はいつもあたしだったのに……!
悠ちゃんがいなかったら、葵ちゃんなんか、友達にもなってなかったよ……っ」
声を震わせて、滝のように涙が流れるのに、あたしを見据える瞳は鋭く、胸が衝かれた。
ズキズキ痛む、胸、あたしを見据える真理ちゃんの表情は明らかに、憎々し気で、挑戦的にも見えた。
いつも笑っていた、真理ちゃんの、こんな表情は知らない。