キョウダイ
第19章 悠ちゃんの生活
「ごめんね、真理ちゃん、ごめんっ」
あたしには謝ることしか、できない。
「そんな言葉はいらない、ただあたしは、セフレでも良かった、ずっと一緒に繋がっていられるだけで、幸せだったのに……!」
真理ちゃんがあたしに近付いて、あたしの手を握り絞める。
「……ねぇ、どうして?
どうして悠ちゃんなの?
悠ちゃんじゃなきゃダメなんじゃないんでしょ?
海ちゃんだって、柊ちゃんだって、明だっているじゃない?
悠ちゃんじゃなくてもいいんでしょ?」
あたしの両手を掴む手の力が、キリキリ増していく。
……悠ちゃんじゃなくてもいい?
海ちゃんや、柊ちゃんや、明だっている……?
あたしは、本当に悠ちゃんじゃなきゃダメなの?
ここまで、真理ちゃん程、悠ちゃんを好きなの?
ここまでの思いは……あたしには、ないのかも、知れない……。
あたしのせいだ。
あたしがいなくなれば……。
消えてしまいたい……。
ただ、立ち尽くすことしかできなかった。
ひとしきり、泣きじゃくって、スルリと手を離された。
力をいれてたせいか、真っ白な、冷たい手。
「このままでは済ませないから、絶対、諦めない、悠ちゃんを取り戻す。
だから、どこかに消えてよ、葵ちゃん、お願いだから、悠ちゃんのアパートには行かないでよ……」
懇願するような瞳でじっと見つめられた。
あたしは……。
気が付いたら……、頷いていた。
「……分かったよ……」
自分の声が、やけに遠く聞こえていた。
屋上のドアの閉まる音がやけに大きく聞こえて、真理ちゃんが出ていった。
ガチャリと鍵が閉まる音がして、ドアノブを回して、鍵が閉められてる事に気付いた。
ズルズルとドアの前にしゃがみ込む。
誰かに連絡すれば鍵はすぐに開けてもらえる。
だけど。
一体誰に連絡すればいいのかな?
大きな声をあげれば、誰かは来てくれるかもしれない。
だけど。
そんな気には、なれなかった。
ずっとここにいれば、誰にも気付いて貰わずに、ずっと一人で。