キョウダイ
第19章 悠ちゃんの生活
ケータイの着信音が響く。
聞き覚えのない、メロディー、あたしのケータイは昨日から、電源を切っているという事を思いだす。
あたしは明の枕元で寝てたみたいで、目を覚まして、鳴り響くケータイを探す。
明の枕元にあるケータイに気付いた。
着信表示された、名前。
『藤森悠斗』
悠ちゃんだ……。
急に冷水を浴びたような気分になって、氷ついたように動けなくなる。
明が手を伸ばして、ケータイを持つ。
「……………!」
電源ボタンを長押ししてる事に気付いた。
そのまま、ケータイを無造作に、鞄の中に入れて、あたしを振り返る。
ゆらりと立ち上がる、その姿は、昨日よりはましなように、思えた。
「夕方には……悠ちゃんの元に戻るんだよ……」
子供に言い聞かせるような、優しい口振り。
馬鹿にされたようで、腹が立つ。
「明は……それでいいの?」
「……どうして?
それがいいに決まってるよね?自分だって、それを選んだんだろ?」
確かにそうだ。
あたしが選んだ事なのに。
それなのに。
どうしてこんなに、悲しいの?
「あたしは……悠ちゃんの所には……もう戻れないよ、だって、あたしは明が好きなんだもん」
明の目を真っ直ぐに見て言うのに、明はあたしから、目を反らす。
「葵ちゃんは、昔から優しいよね、だから……同情してそんな事を言うんだよ、だけど、俺は、ダメだから、悠ちゃんの所に帰った方がいいよ」
掠れたような声で、あたしの顔を見ない明に、もどかしくなる。
ベッドから下りて、明の傍に向かう。
「どうして我慢するの?
明が昔から色んな事、我慢してたのは知ってるけど、あたしの事だけは、我慢して欲しくないよっ」
「葵ちゃんだからだよ……。
大事だから、傷付いて欲しくない……。
いついなくなるか、分からない、俺の事なんか、忘れてしまえばいい、どうせ、いなくなる、存在なんだから」
明を後ろから抱きしめる。
「今までさんざん意地悪していた癖に、傷付いて欲しくないとか、嘘つきだよ、本当はそんな事思ってなんかない癖にっ」