キョウダイ
第4章 大人の男の人
「ねえ、悠ちゃん?」
お母さんの車を運転する悠ちゃん。
「なんだ?」
前を向いたまま、答えてくれる。
「血が繋がってないって、あたしだけなんだよね?」
キョウダイ皆、似たような顔立ちをしている。
お母さんは色白で色素が薄い、茶色い目と髪をしている。
皆お母さん似の美人だ。
「葵は養子という感じで10年前に家の子になったんだ」
10年前。
不幸な事故。
車の窓の外の景色が流れて行く。
通り過ぎる車のライト。
街のネオン。
あたしには、10年前の記憶がない。
「俺達はその時の事を良く覚えている」
悠斗side
入院している病院にお見舞いに行った。
個室の広い病室に葵はいた。
白いベッドの上で横になっていた。
頭に巻かれた包帯が痛々しい。
良く見れば、腕や体にも、包帯があった。
重症、意識不明だった。
ガードレールに車がぶつかり、その衝撃で車の窓の外に投げ出された。
その小さな体は谷底に落ちる事なく、山の木々の間に落ちるが枝に引っ掛かり、一命をとりとめた。
だけど、他の家族は谷底だ。
「パパ、ママ、奏ちゃん」
両親と弟が一人いたが。
後で車は引き上げられ、遺体は確認された。
俺達は家族皆でお見舞いに行ったんだ。
子供の時から家族ぐるみの付き合いで、良く一緒に遊んだから面識はある。
その俺達を見て、葵は言った。
「パパ、ママ、奏ちゃん?」
母さんがたまらずに涙を流した。
だが海斗は。
「何言ってんだ?海斗だよ、柊に悠ちゃんだ」
「奏ちゃんは?」
みんなぐっと、黙り込むなか、
「海斗で柊で悠ちゃんだよ」
ひたすら言う。
「海斗、柊、悠ちゃん……」
覚えるように、口の中で繰り返す葵。
「パパとママは?」
これに対して海斗は母さんと父さんを指で指して。
「パパとママだ」
と言った。
葵を引き取る話はすでにしていたから海斗もそう言ったのかもしれない。
「パパ、ママ?」