キョウダイ
第4章 大人の男の人
葵はそこで初めて笑った。
俺はゾクリとした。
危うさを感じたんだ。
「良かった……、ずっと恐い夢を見てたから……パパママいた……」
母さんが葵を優しく抱きしめた。
「そうよ。パパとママよ。それから葵のキョウダイ……」
「兄ちゃんと、弟だ」
海斗が言って笑う。
「弟?」
葵が柊斗の顔をじっと見つめる。
柊斗はぎこちなく笑う。
「うん、お姉ちゃん」
「そっかぁ、良かった、夢だった……」
ホッとしたように呟く葵を、不思議な思いで見ていた。
記憶の混乱。
ショックな事を受け入れなくなり、夢だと思い込み、なかった事になる。
変わりに受け入れられる情報。
俺たちは、キョウダイ。
キョウダイになる前の記憶は葵の中では消え失せていた。
一緒に遊んだ日々を覚えてない。
あの約束も、覚えてる訳ない。
子供の時の事だ。
俺にとっては大事な事でも。
葵にとっては。
消されてしまった記憶の1つに過ぎない。
それでも構わない。
この笑顔が守れるのなら。