キョウダイ
第4章 大人の男の人
「あのさあ、悠ちゃん……」
「何かな?」
「くどいようだけど、あたし明日はテストなんだよね」
「知ってるよ」
それがどうかした?
とばかりにグラスを傾ける悠ちゃん。
グラスの中身は赤ワインだ。
しかも、まるっと一本注文したし。
ここはかの有名な高級ホテル。
どうやらお母さんの会社と関わりがあるようで。
よく分からないけど、さくっと予約できたらしい。
びくびくしながら、ここに連れて来られ、緊張しながら座った瞬間、
「景色いいし、お前もなんか綺麗だし、飲もうかな」
さらりと呟いた。
「悠ちゃん車はっ!」
「面倒だから置いて、タクシーで帰ろう」
こともなげに言って、ニコニコ笑う。
「母さんに言えば大丈夫」
またそれかいっ。
どら息子かっ?
「言っとくけどね、今日は特別。お姫様のために我が儘全部聞いて来いってゆう母さんの指令だよ」
「えっ?そうなの?」
くいっと、グラスに口をつける悠ちゃん。
1つ1つの動作に流れるような、色気を感じる。
お酒が入っているからかな。
「ちなみに母さんには家出したとしか言ってない」
「家出?家出したつもりはないんだけど……」
前菜をつつく。
お皿がおしゃれでやたらデカイ。
「でも取り敢えず家を出た。みんなに心配かけた。これを世間では家出というんだよ」
にやりと笑う。
むうっ。
ちょっと頭を冷やそうとしただけなのに。
ちょっと一人で考えようと、思って。
一人で。
考えられる事じゃない。
ぐるぐるぐるぐる。
分からないから良くない事とかも考えた筈だ。
解決する事もない。
「悠ちゃんは……」
何か聞いた?
上目づかいに悠ちゃんの表情を伺う。
「柊からまずはパニック電話があって。海斗はすぐにお前を追いかけようとしたようだけど、柊がそれを止めて、揉めてたな」
くっと、思いだし笑い。
あたしは笑えないけどね。
「で、俺が行って、ほとんど柊に話を聞いて、海斗は動揺すると黙り込むからな、話にならない」