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キョウダイ

第4章 大人の男の人




「でまあ、取り敢えず、海斗はボッコにしたんだけど……ちょっとやり過ぎて、あいつ腕の骨が折れたらしい」


さらりと悠ちゃんは言って、またグラスに口をつけた。


「えっと、悠ちゃん?」


「空手やめて久しぶりだったからな。つい、加減が分からなかった」


「えっ?ちょっと待って、骨折って?ええぇっっ?」



「まあ、左手だし、一ヶ月くらいで治るみたいだから、大丈夫大丈夫」


ひらひらと手を振る。


前菜をつつきながら落ち着いた様子でワイングラスを傾ける。


男のキョウダイは怪我が多い。


空手道場に通ってたし、腕の骨、足の骨。


みんな結構やっている。


柊斗は腕の骨が砕けて針金とかを使う手術をしている。


キョウダイ喧嘩は派手に格闘。


生傷が絶えない時代もあった。


「それで、葵」


あたしは前菜を食べ終え、スパゲッティーがテーブルに運ばれる。


悠ちゃんも食べ終えたみたいで、お皿を下げられ、変わりにステーキらしきものが運ばれて来た。

「わぁい」


シーフードのクリームスパゲッティー。


ほかほかの湯気。


仄かに香る、ニンニクの匂い。


「海斗の事、許せるのか?」


えっ、どういう意味?



「……嫌じゃ……なかったから」


俯いて小さな声でモゴモゴと答える。



「海斗の事、好きなの?」



悠ちゃんの瞳が妖しく光る。



「分かんない。キョウダイだと思ってたから」



急に切り替われない。



本当のキョウダイだと思ってた。



だけど。



みんなは違ってた。



最初から覚えていた。



あたしは、思いだせない。






本当の家族の名前も記憶もないままだ。



話を聞いて、そうなんだ、と思うだけで。



実感湧かないし。




「そうか。そうだよな、急に言われても困るか」



お皿のお肉をナイフとフォークで切って食べている。


あたしもパスタを食べるけど。



ふと気付く。



ボトルのワイン、結構減ってる。



悠ちゃんお酒強かったのかな?



端正な顔立ち、ほんのり赤くなっている。

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