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キョウダイ

第8章 意地悪な彼氏




「何でそうなるかな?公式ちゃんと分かってるよね?」


あたしの手元を覗きながら、溜め息混じりに呟く明の顔。


凄くいきいきしている。



あたしに意地悪するのが楽しくて仕方ないって感じ。



「当たり前じゃん」



「威張って言うなら、解けるはずだけど?」



きらりと輝く瞳が恐い。



ううっ。



くじけずにシャーペンを走らせる。




「葵ちゃん?面倒臭く考え過ぎ。もっとシンプルに考えたほうが分かるよ?」



途中から下のほうを消しゴムで消される。



「ここから普通に考えて?」



普通に。



素直にシャーペンを走らせる。



大袈裟な溜め息。



「なにそれ?思いこみ?なんでそんな事になっちゃう?」



いらいらいらっ。



「もうちょっと、具体的に教えてよっ」



「それじゃあ、意味がないんだよ、分かるのに考えかたがおかしいからね?」



「分かんないよっ、考えかたじゃなくて分かんないんだもんっ」


やっぱり、そんな気がしたけど、喧嘩になっちゃった。


なんとなく、涙がでた。



しまった、というような明の顔。



さっと顔色が変わる。



キイッといういすの回る音。



絨毯の上に明の足が見えた。



ぎゅっと抱きしめられる。



「ごめんね。言い過ぎた」



急に優しくされると、涙が止まらなくなる。






これは違う。



泣いているのは。



悔しくてだ。



出来ない自分が悔しくて、自分を責めてるんだ。



明が悪いんじゃない。



出来ないあたしが悪い。



みんなみんなあたしが悪い。




あたしが。



あの家にいるから。



血が繋がってない、他人なのに。




あたしのせいで。




頭がごちゃごちゃしてきた。



何だろう?



涙が止まらなくなってきた。



感情の波が押し寄せてくる。



頭が、痛い。




アタシノセイデ。



アタシダケ、イキテ。




ミンナシンデシマッタ。




アタシノセイデ。




「葵ちゃん?大丈夫?」



頭を抱えるあたしを、心配そうに覗き込む瞳。




どこかで見たことがある顔に似ている。



あれは、誰だったろう?

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