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夏恋

第1章 夏恋

 約束の五分前。先輩からのメール。

“ごめん。急用が出来て、行けなくなった”

“分かりました”

 簡単にメールを返すと待ち合わせ場所の階段の下から動き、河原沿いの屋台が並ぶ道を歩き出す。

「先輩……?」

 先輩が歩いて来るのが見えた。だけど、隣には女の人。野球部のマネージャーで美人だとモテている人だ。手を繋いで歩いている。

 私はとっさに左隣のわたがし屋さんの方を向き、わたがしを買う。来た道の方を振り向くと先輩たちの背中が少し遠くに見えた。

「甘い……」

 わたがしを一口食べて呟く。まるで河原を歩くカップルのようだ。

 どうしてこうなってしまったのだろうか。すぐに帰れば、見なくて済んだ。こんな気持ちにならなくて済んだ。わけの分からない感情が私の心を締め付ける。

 先輩と付き合って浮かれていたのは私だけだった。先輩は涼しい顔をして、私のことをもて遊んで、裏切っていたのだ。

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