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夏恋

第1章 夏恋

「椎名ー」

 私の名前を呼ぶ声がする。私目掛けて走ってくる男の子たち。私は反射的に反対側を向いて走り出す。

「ちょ、待てよ!」

 私の足は無理矢理に止められた。腕をがっしりと掴まれてしまったのだ。私は後ろを向いてそいつを睨みつける。そこにいたのは、クラスの人気者、川口くんだった。小さい男の子を連れている。小学一年生くらいだろうか。

「何よ?」

「いや、見えたからさ。て、あれ? どうしたの?」

 オロオロして私の顔を覗き込んでくる。何でそんなに困っているのだろう。心配そうにしているのだろう。

「何が?」

「いや、だって……頬」

「え?」

 反射的に自分の頬に触れる。手には雫が付く。そこで、泣いていたんだということに気が付いた。

「椎名、良かったら俺らと一緒に回らない?」

「あ、うん。いいの?」

「いいよ。やっぱ椎名は笑顔の方がいいな!」

「え? あ、うん」

 本当は一人になりたくなかった。花火だって見たかった。だからその誘いが嬉しくて、さっきまでの涙は嘘みたいで笑えたのだろう。

「じゃ、行くか」

「おー」

 川口くんの言葉に男の子が続く。



 スーパーボールすくいに金魚すくい。はしゃぐ男の子の笑顔。真剣に射的で景品を狙う川口くん。そんな姿を見ていると、少し幸せな気持ちになれた。痛みが少しずつ溶けていくような……今はそんな気がする。

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