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心はまるで水車のように

第1章 発端

「どうしてって、貴方も来年で卒業でしょ。そろそろ母さんも楽になっていいわよね?」

 私の知っているお母さんじゃない。男なんていらない。女一人で強く生きる。ずっとそうだと思っていた。私の大好きだったお母さんはどこだろう? 嫌だ。嫌だ。嫌だ!

「そんなのお母さんじゃない! いつも二人で頑張ってきたのに! そもそも楽になりたいって何!? 私が邪魔ってことなの!? ねえっ!」

 机に用意されていた料理をぶちまけた。音を立ててお皿が割れる。それはまるで心が壊れていく音。何かが崩れていく音。だけど不思議と涙は出なくて。お母さんも女である。ただそれだけのことだと頭では分かっているのに、心がついていってくれない。

「そんなつもりじゃないのよ。誤解だわ」

「じゃあ、なんで隠してたのよ! 今更、言い分けなんていらないわ。男にうつつ抜かすんだったら、私なんて産まなきゃよかったじゃな……っ!?」

 言い終わる前に頬に痛みが走った。お母さんに叩かれたのだ。

「何するのよ! もう知らない!」

 走って出て行こうとするが、腕をつかまれてしまう。

「ちょっと待って! お母さんの話を聞いて!」

「もうっ。放してよ!」

 つかまれている手を無理矢理ほどいて、玄関に走る。スニーカーの後ろを踏んで履き、外へ飛び出した。

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