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しなやかな美獣たち

第3章 ♥:Sweet Beast【恋愛・NL】


 「好きな物を頼みなよ」

 そう言いながら彼は自分のメニューに視線を落とす。ちょっと暗めの照明が彼の頬に、睫毛の影を色濃く落としていた。

 メニューが決まると店員を呼び、オーダーをスマートにこなす彼に始終うっとりの私。今日が人生最後の日であっても、後悔はない等と馬鹿な事まで考える。

 それだけ舞い上がっていたのに、更に追い打ちを掛けられる事になるとは、この時はまだ思ってもみなかった。

 「川戸さんは何であの講座を?」

 料理に舌鼓を打った後、コーヒーを楽しみながら、私が疑問に思っていたことを尋ねる。

 彼は一流企業のサラリーマン。そんな彼が何故、作家の養成講座なんかを受講しているのだろうと。

 普通だったら仕事に関係しそうな習い事をしそうだけど。

 「ん? ああ、学生の頃の夢だったんだよね、小説家になるの。あと2年で30だし、その前に挑戦してみようかなぁと思って」

 そう言って彼は微笑んだ。私達は料理を待つ間、名刺交換をし、お互いの名前を確認した。

 とは言っても、川戸さんは私の名前を知っていたみたいだったけど。

 「そんな、小説なんて幾つになっても書けるじゃないですか。どうしてそんな事を……」

 「そうなんだけどね、家庭を持つ前に自分の道をある程度決めたいなって思って。奥さんになる人に苦労はさせたくないし……ね?」

 彼の言葉に胸がズキンと痛む。

 そっかこんな素敵な人だもの、彼女くらい、いるのが当然だよね。何を期待していたんだろう。

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