しなやかな美獣たち
第3章 ♥:Sweet Beast【恋愛・NL】
これはスマートフォンを保護してくれた、私からの御礼の席なのに。まともに話したのなんて今日が初めてくらいなのに。
「そうなんですか。彼女さん、幸せですね。川戸さんみたいな素敵な人に、そうやって大事に思われて……」
あ、ヤバイ。ちょっと声が震えたかも。
「そう思う?」
川戸さんは、コーヒーのカップを両手で弄びながら私に尋ねる。男の人にしては、細くて長い綺麗な指。
きっとその指で彼女を乱したりしているんだろうな等と、邪な事を考えてしまう。
「ええ。思います。羨ましいなって……」
「じゃあ、その羨ましい人になってみる?」
「え?」
今、何て仰いました? 私の願望が幻聴となって聞こえたのでしょうか?
「僕の……彼女になってみませんか?」
そう言って頬杖をつきながらにっこりと微笑む川戸さん。
え? ちょっと待って。え? 何で? え? え? ええー!?
「キミってさ、講座が終わったあと、必ずきちんと先生に"有難うございました"って頭を下げて言うよね?」
「え、それは教えて頂いたんだし、当然の事じゃ……」
「でもさ、今度、教室を見てご覧よ。そんな事をしているのは、ほんの数人だよ」
確かに、講義が終わりそうになると、教材を片付け始め、先生の終了の声で席を直ぐに立つ人もいるけれど……。
遠くから通っていて、電車の時間もあるだろうからと特に気にした事はなかった。