しなやかな美獣たち
第3章 ♥:Sweet Beast【恋愛・NL】
何なの、この人? 何気ない事を褒めてくれたり、ちょっとした事に目を止めてくれたり。嬉しくて舞い上がっちゃうんですけどー!!
最初は揶揄われているんだって、そう思っていたけれど。彼の口から語られる私への気持ちは嘘じゃない。そう信じられた。それだけ、彼は私の事を見てくれていた。
だから、2杯目のコーヒーを飲み終える頃には、私は彼とお付き合いする事になっていた。
会計を済ませ、店の外に出る。
結局、支払いは彼がしてくれた。「彼女に出させるわけないでしょう」と言って。
「その代わり、今夜は帰さないからそのつもりでね?」
そう言うと彼はまた、綺麗な微笑を浮かべた。
えっと……、それは……。え! いきなりですか? いきなりお持ち帰りですか? 展開、早くないですかー!!!
「駄目?」
ハンドルに凭れながら、彼が私を見る。
「エッチな事、嫌いじゃないでしょう? "天乃 嘉環(アマノ カワ)"さん?」
彼の口から飛び出たその名前に、私の心臓は口から零れ落ちるのではないかと思う程に飛び跳ねた。
「天乃 嘉環」とは私が携帯小説サイトで使用しているペンネームで、私はそれで主に官能小説を書いているのだ。
「ど……どうして、それ……を?」
飛び跳ねる心臓を両手で抑えながら、やっとの事でそう尋ねると彼は笑って答えた。
「時々、休憩時間にスマホで小説サイトを開いて、自分の書いているページを見てるでしょ?」
「な……んで知って……?」