しなやかな美獣たち
第3章 ♥:Sweet Beast【恋愛・NL】
私はそれに素直に従い、彼の舌を受け入れた。熱い彼の舌が、私のそれに絡まる。私は彼の舌の動きに応えるので精一杯だ。
舌を絡め合う水音が、やけに大きく聞こえる。いやらしい音。でも、それよりも大きいのは、きっと私の心臓の音だ。
官能小説を書いているからと言って、そこまで経験が豊富なわけではない。殆どが妄想の世界だ。しかも、相手は経験豊富そうな年上のイケメン。
そんな人との口付けにドキドキしない人なんているんだろうか?
いるとしたならば、その人はきっと自分に自信のある大人の女の人だろうなと私は思った。
「ん……」
ちゅっと音を立てて、彼の唇が離れる。私と彼の唾液が混じった糸が、駐車場の街灯に照らされ、銀色に光った。
「そんなに瞳を潤ませて……。堪らないな……」
そう言いながら、彼が私の唇の糸を親指で拭う。
「続きは僕の部屋でしよ?」
彼にそう囁かれて、私は無言で頷いた。
「いいの? 嬉しいな」
彼は蕩けそうな笑みを浮かべると車のエンジンを始動させ、ハンドルを握った。
軽い女だと思われてるかな。そんな不安が胸を過る。でも、一度点いてしまった火は、中々消えてはくれない。
私は覚悟を決めると、シートに身を預けた。そんな私の手を彼の大きな掌が包む。
優しく包んでくれる彼の掌の熱に、先程、彼が私のどこを好きかを語ってくれた事を思い出す。
大丈夫。彼は裏の顔を知っていて私を好きになってくれたのだ。
真剣な目をして前を見つめる彼の横顔を見ながら、私はそう思うのだった。