しなやかな美獣たち
第1章 ♠:Vivid Colors 【学園・NL】
4限目の終了を告げる鐘の音と共に、俺は立ち上がると購買に向かって走る。
昼飯のパンを買う為に走る!走る!
角を曲がり購買部に辿り着くと既に黒山の人だかりがあった。
僕の教室は購買部から一番遠い場所にある。
だから、スタートダッシュでどうしても負けてしまうのだ。
僕は人の波を掻い潜ると、目的のパンコーナーへと到達する。
棚を見回し僕の好物の焼きそばパンを探す。
あった!!
僕は最後の1つのそれに手を伸ばすと掴んだ。
その瞬間。
「ああ━━━っ!!!」
女の子の悲痛な声が傍で聞こえた。
「最後の1個…。最後の1個…」
そんな声まで聞こえる。
僕はその声の方をチラっと見ると、心臓がドクンと大きく跳ね、呼吸が止まった。
(彼女だっ!!!!!)
ユカさんが目の前に居る。
髪の長さが違うけど。
髪の色も違うけど。
メイクもしていないけど。
僕には彼女がユカさんだと何故か確信出来た。
僕がパンを掴んだまま、固まっていると、彼女は僕に向かって言った。
「ちょっと!レジ行かないならアタシにそのパン譲ってよ!」
この時、僕はどうすれば良かったんだろうか?
僕は彼女に何も言えずに、まるで間接のオイルが切れたロボットみたいにカクカクしながら、レジに向かってしまった。
会計を済ませて辺りを見回せば、そこには彼女の姿は既になかった。