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しなやかな美獣たち

第4章 ♥:オオカミ少年とヒツジ女子【年下♂×年上♀】


 「お前が僕の身体を見るのが恥ずかしいと言うのならば、止めてやるが、そうでないと言うのならば、僕の好きにさせろ」

 「じゃあ、恥ずかしいです」

 「"じゃあ"ってなんだ。取って付けたような言い方だな。別に恥ずかしくないだろ? もう、三年も見てるんだし……。ん!」

 そう言いながら坊ちゃまは頭を差し出す。頭を洗えと言う催促だ。

 私は坊ちゃまに気付かれないように、そっと溜息を吐くとシャンプーを泡立て坊ちゃまの髪を洗った。

 ふわふわの泡を立てながら、ワシャワシャと坊ちゃまの頭を洗う。坊ちゃまは気持ち良さそうに目を閉じている。

(ふふ。ワンコみたいだな……)

 そうか。坊ちゃまの事をワンコだと思えばいいのだ。主を犬として扱うなど、使用人としてはあるまじき事であるが、そうでも思わないとやっていられない。

 別に欲情するわけではない。兎に角恥ずかしい。唯、それだけだ。それを押し殺して使えるのが、使用人なのだけれど。

 「おい! 楠! いつまで流してるんだ!? まだ、泡は落ちないのか?」

 「すみません。もう、落ちました」

 坊ちゃまの声に我に返ると、私はシャワーを止め、タオルで坊ちゃまの頭を包む。そして余分な水分を拭き取る為に、ワシャワシャと頭を撫でた。

 その間、坊ちゃまは目を瞑り、私のされるがままだ。私の事を信頼して身を任せて下さっているのが分かり、それは嬉しい事だと思った。

 結局、この日は説得が出来ずに終わってしまったが、私は諦めない。そろそろ入浴くらいは一人立ちして貰おう。

 そう心に決めた、春の午後だった。

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