しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
「じゃあ、俺と来い」
そう言うと男は、あたしの腕を掴んだ。
「え? 何で? どうしてあんたと行かなきゃならないのよっ!?」
「俺があんたを気に入った。あんたを俺のペットにする」
男がそう言うと、黒い靄に包まれる。視界が黒く塗りつぶされ、あたしは何も感じなくなる。自分の姿さえも確認出来ない闇に包まれ、死んだらこんな風になるのかな、なんて思った。けれど、黒い靄は直ぐに晴れて、いつの間にか見た事のない場所に立っていた。
石を積み上げて作られた壁。高いドーム状の天井からは、巨大なシャンデリアが垂れ下がっている。床も壁と同じ石を並べられており、シャンデリアの真下には、赤黒い色をした絨毯が敷かれていた。それ以外にあるのは、天蓋付の大きなベッド。それだけ。一体、ここは何処なんだろう?
「ここ? 俺の住み家。地獄と天国、そして時間の狭間」
「あー……、はいはい。中二病的発言は、いいから。真面目に答えてくれない?」
「だから、真面目に答えてんだろ? ってか、いい加減認めろよ。俺が"死神"だって。ここに来る時に分かっただろ?」